Service遺言作成
参考:遺言書作成
相続の法務対策をしないと争続になる
相続が発生した場合,誰が相続人になるのか,相続人の相続分がどれくらいかは,民法に定まっています。しかし不動産や自社株など売却困難な資産が相続財産の中心であったり,特定の相続人に家業を継がせたいが事業用資産しか相続財産がないといった場合には,民法の法定相続分によって分割すると不都合が生じます。このような場合には,遺言,生前贈与,遺留分放棄などを組み合わせた相続の法務対策が必要となります。
遺言の種類
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普通方式遺言と特別方式遺言
法律上,遺言は普通方式遺言と特別方式遺言に大きく分かれます。
普通方式遺言には,
①自筆証書遺言
②公正証書遺言
③秘密証書遺言
の3つがあります。
遺言の大部分はこの普通方式のいずれかです。
特別方式遺言とは,死期が迫っているなどして普通方式の遺言をする余裕がない状況でも遺言書を作成できるように特別に認められた遺言の方式です。①危急時遺言と②隔絶地遺言があります。 -
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは,遺言者が,その遺言の全文,日付及び氏名を自書しそれに押印をすることにより作成する遺言書です。
自分ひとりで遺言書を作成できるため,簡便な方式といえます。しかしその反面,自分で作成するため,法律で定められた要件を欠いてしまったり,内容が不明確であったりして遺言の効力が認められないこともあります。また,適切な保管手段を講じておかないと,遺言書が紛失してしまう恐れもあります。
また,相続開始後に家庭裁判所において,検認という手続を経る必要があります。 -
公正証書遺言
公正証書遺言とは,公証人に作成してもらう方式の遺言書です。
公証人という専門家が作成するので遺言が無効となることは少なく,また遺言書は公証役場で保管されるので,紛失や改ざん等の恐れはありません。検認手続も不要です。しかし,公証人に対し作成手数料を支払う必要があるので,手間と費用はかかります。 -
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは,遺言の内容の秘密を守ることができる遺言方式です。作成に公証人と証人2人以上を関わらせる必要があります。
作成方法は,まず遺言者が遺言書に署名・押印をして封筒に入れた後,遺言書に押したのと同じ印章で封印し,その封書を公証人及び2人以上の証人の前に提出し,遺言者は,封筒の中身が自己の遺言書である旨及び,自分の氏名・住所を申述します。公証人は,封紙に封書が提出された日付と遺言者の申述内容を記載し,その封紙に,公証人,証人2人及び遺言者がそれぞれ署名・押印します。 作成された遺言書は遺言者が持ちかえるので,自筆証書遺言同様紛失の危険はあります。
また,遺言書の記載については,署名だけは必ず自分で書く必要がありますが,その他はパソコン等で記載しても構いません。もっとも,自筆で記載しておけば,上記のような秘密証書遺言としての方式に欠ける場合でも,自筆証書遺言の方式を満たしている場合には,自筆証書遺言として有効になる余地があります(民法971条)。 自筆証書遺言同様,相続開始後,家庭裁判所の検認を受ける必要があります。 -
危急時遺言
危急時遺言とは,病気等の理由で死が間近に迫っているような場合(一般危急時遺言)や船舶で遭難した場合(難船危急時遺言)に,3人以上の証人に対して遺言の内容を伝え,証人の一人が筆記をして,遺言者及び他の証人に読み聞かせ,又は閲覧させ,各証人がその筆記の正確なことを認証した後,これに署名・押印する方法により作成する遺言書です。 -
隔絶地遺言
隔絶地遺言とは,伝染病で隔離されている場合(一般隔絶地遺言)や,航海中の船舶の中にいる場合(船舶隔絶地遺言)に認められる遺言書です。
遺言作成のポイント・遺言執行者
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遺言作成のポイント
自筆証書遺言の具体例で、遺言作成のポイントを確認します。遺言書※1※5
遺言者甲田太郎は、次のとおり、遺言をする。
- 一、所有する不動産は、妻である甲田春子に遺贈する。※2
- 二、○○銀行○○支店の遺言者名義の定期預金は、長男である甲田一郎に相続させる。
- 三、現金500万円は,二男である甲田二郎に相続させる。
- 四、その他の財産は、長女である甲田夏子に相続させる。
平成22年4月23日※3
東京都目黒区○○丁目○番○号
遺言者 甲 田 太 郎㊞※4- ※1日付、氏名及び全文が自筆で作成される必要があります。保存の観点からは、鉛筆ではなくペンで、丈夫な紙に記載するのがよいでしょう。
- ※2「遺贈する」と「相続させる」との表記の違いによって効果に大きな違いが生じます。例えば相続登記をする際,「相続させる」としておけば,承継相続人が単独で登記をすることができますが,「遺贈する」とした場合には,相続人全員(遺言執行者がいる場合には遺言執行者)による共同申請が必要となります。また,「相続させる」としておけば,登記等の対抗要件を備えていなくても相続したことを第三者に主張できますが,「遺贈する」としてしまうと,対抗要件が必要となり,土地であれば,先に誰かに登記されてしまうと受贈したことを主張できなくなります。したがって,相続人以外の人物に財産をあげたい場合以外は「相続させる」という文言を使う方がよいでしょう。
- ※3実際に遺言をした日の日付を記載することが必要です。「平成22年4月吉日」といった記載では日付の特定ができないため、全体が遺言として無効となってしまいます。例のように明確に記載すべきです。
- ※4署名・押印が必要です。印章は実印でなくとも認印でも無効になることはありません。拇印でも無効となるわけではありませんが、見ただけでは誰のものかわからないので避けたほうがよいでしょう。実印を用いるのが最も安心です。
- ※5遺言書が複数枚になった場合には,それが一通の連続した遺言書であることを証明するために契印をする必要があります。
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遺言執行者
- (1)遺言を作成する場合には,遺言の中で遺言執行者を定めておくことが望ましいと言えます。登記手続きや預金の引き出しなどは,手続がかなり煩雑です。迅速な執行の実現や執行妨害の防止等の観点から法律的な知識を有する弁護士などに依頼をするのがよいでしょう。
- (2)不動産登記について 「相続させる」遺言の場合,承継相続人が単独で相続登記をすることができます。しかし承継相続人の委任によって遺言執行者が代わりに手続を行うことは可能です。一方遺贈の場合は,遺言執行者が登記義務者である全相続人の代理人として手続を行います。
- (3)遺言の中に執行を要する遺言事項のうち,相続人の廃除又は取消し及び遺言認知以外のものについては,遺言執行者でも,相続人でも執行行為を行うことができます。例えば,遺贈(民法964)や信託の設定(信託2),祭祀承継者の指定(民法897),生命保険受取人の指定・変更(商法675II)などです。 この場合,遺言の中で遺言執行者が指定されている場合は,遺言執行者が遺言の執行を行うことになります。一方遺言執行者の指定がない場合は,遺言執行者を選任しなくても,相続人が執行を行えばよいということになります。なお,相続人が自分で執行できる場合でも,遺言執行者を選任することは可能です。
- (4)遺言の中に遺言執行者でなければ執行できない事項があります。相続人の廃除又は取消し(民法892,893,894)や遺言による認知(民法781II)がその例です。 この場合,遺言の中に遺言執行者が指定されている場合は,遺言者の死亡によりその指定の効力が生じることになります(民法1006)。遺言の中に遺言執行者の指定がない場合は,遺言執行者を家庭裁判所で選任してもらう必要があります。
遺留分の放棄・生前贈与
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遺留分の放棄や生前贈与は,相続対策に使うことができます。
例えばAさんに遺産を全部遺贈または相続させたい場合,生前に採り得る手段として,Aさんに遺産を全て遺贈するまたは相続させる旨の遺言を作成し,Aさん以外の法定相続人に家庭裁判所の審判を通して遺留分の事前放棄をしてもらいます。そうすると他の法定相続人は遺留分減殺請求ができないので,Aさんに全ての遺産を遺贈または相続させることができます。 また,生前贈与によって重要な事業財産を事業の後継者に集中させることができ,法定相続分に従った相続による事業財産の共有化,細分化を防ぐことができます。 -
遺留分の放棄
- (1)遺留分の事前放棄
遺留分の事前放棄には、家庭裁判所の許可が必要となります。許可基準の中心は、遺留分放棄が遺留分放棄者の真意に出たものであるかどうか(真意性)です。それに遺留分放棄のために受けた贈与の金額などが相当であるか(相当性)が加味されます。 次に遺留分放棄の事前放棄許可審判の手続を東京家庭裁判所の運用を参考にして説明します。まず遺留分の事前許可審判申立書と戸籍謄本などの必要書類を管轄の家庭裁判所に提出します。すると数週間で「照会」と題する書面が遺留分放棄希望者に直接送付されてきます。これは遺留分放棄希望者の遺留分放棄の意思表示が真意であるかどうかを裁判所が確認するための書面です。真意性を疑われるような記載をすると、遺留分放棄希望者は裁判所に呼ばれて真意性についての質問を受けなければならない可能性が高いので注意が必要です。真意性等に特に問題がなければ1週間程度で許可審判が出されることになります。 遺留分の事前放棄の許可審判に対しては、その後の事情の変更を理由として放棄者の申立てにより、家庭裁判所は許可の取消しの審判をすることができます。もっとも一度裁判所による審査を経て許可審判が出されている以上、著しい事情の変更がない限り簡単には取消審判は認められないと考えるべきです。 - (2)遺留分の事後放棄
相続開始後は、遺留分権利者は自由に遺留分を放棄することができます。 - (3)遺留分放棄の効果
遺留分を放棄した場合には、放棄者は遺留分を主張することができなくなります。しかし他の遺留分権利者の遺留分が増えるわけではなく、単に被相続人が自由に処分できる財産の割合が増えるだけです。また遺留分を放棄しても相続を放棄したわけではないから、相続人の地位は失いません。
- (1)遺留分の事前放棄
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生前贈与
生前贈与とは生きている間に行われるいわゆる贈与契約のことです。相続開始前1年以内になされた生前贈与は,遺留分算定の基礎財産に加えられます(民法1030前段)。また被相続人及び受贈者の双方が,遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与も,相続開始より1年以上前のものでも遺留分算定の基礎財産に加えられます(民法1030後段)。また生前贈与が相続人に対してなされ,それが特別受益に当たる場合,その贈与が1年以上前の贈与であっても,遺留分算定の基礎財産に算入されます。